風速測定の新センサー VTQ
―風速測定の進化で辿り着いた次世代品―
粉塵があっても測定を長期化、
誤差を最小限に抑える画期的センサーの登場!
本章では、E+E社の誇る次世代型VTQ新センサーの説明、並びに風速とは、風速計の種類、風速計の設置上の注意に関する説明をします。
1 風速とは
お分かりの様に、風の速さのことです。JIS T8202では、空気の流れの単位時間当たりの直線的移動距離の大きさと定義されております。気象観測用だけではなく、換気扇の排気測定、集塵システムなどで使用されております。
2 風速や風速測定の歴史
風速の歴史は、古代の人々の観察から始まり、科学の発展を通じて進化してきました。古代文明において、風は航海や農業において重要な要素であり、気象の変化を予測するために風の方向や強さを観察する習慣がありました。例えば、古代ギリシャのアリストテレスは、風の性質や影響についての考察を行い、自然現象を理解する基礎を築きました。
中世になると、風の測定技術が徐々に進化しました。特に、17世紀には科学者たちが、風速の観察に重要な貢献をしました。彼らの研究により、風の性質がより科学的に理解されるようになりました。
19世紀には、気象観測所の設立が進み、風速データが広範に収集されるようになりました。各地の気象観測所では、風速が定期的に測定され、そのデータが蓄積されていきました。この時期、気象学は学問として確立され、風速に関する研究が深化しました。風速と気象現象の関係を探る研究が進み、特に嵐や台風の予測において風速の重要性が認識されるようになりました。
20世紀に入ると、気象学は大きな変革を迎えました。特に、コンピュータの登場により、風速やその他の気象データを迅速かつ高精度に処理することが可能になりました。これに伴い、気象予測モデルが進化し、風速の変化に基づく気象予測の精度が飛躍的に向上しました。また、衛星技術の進化で、地球全体の風速をリアルタイムで観測することができるようになり、特に台風や嵐の監視が容易になりました。
1920年代に入ると、熱式(熱線式)風速計の基本的な設計が確立されました。
1940年代から1950年代にかけてより精密で小型の熱式風速計が発明されました。更に電子技術も向上した為簡易に管理できることで爆発的に国内外に浸透しました。
しかし、環境の影響(温度、湿度、圧力)を受けやすい、埃や塵・油分などの微粒子に覆われてしまうと正確な測定ができず、故障が多かったことより普及は一部にとどまりました。
最近では、気候変動の影響が風速に与える影響が注目されています。風のパターンが変化し、異常気象が頻発する中、風速の研究は気象災害の予測や対応においてますます重要性を増しています。さらに、再生可能エネルギーの分野でも風速データの活用が進んでおり、風力発電の効率的な設計や運用に寄与しています。
近年では、人工知能やビッグデータの活用により、風速予測がさらに高度化しています。これにより、風速の変化をリアルタイムで捉え、気象予測の精度を向上させる取り組みが進んでいます。風速のデータは、エネルギー政策や環境保護の観点からも重要であり、今後の研究や技術開発においてもその役割は大きいでしょう。
2016年に、E+E Elektronik社が世界で初めてこれまでの熱式風速センサーの弱点を補ったVTQセンサーを開発しました。熱式風速計の弱点である埃が蓄積しない仕組みにより、再度熱式が普及されつつあります。
このように、風速の歴史は、古代の観察から始まり、科学的な理解が進むことで多様な分野に影響を与えてきました。今後も、風速に関する研究は新たな知見を提供し、気象学や環境科学、エネルギー分野において重要な役割を果たし続けるでしょう。
3 VTQセンサー・・・次世代の測定を体感!
風速測定でよく問題になるのは測定中にセンサー部に付着する塵や埃によって測定値の誤差が大きくなり、いずれ故障してしまう現象です。
しかし、VTQは、センサー周辺の風の流れを研究し、塵がセンサーに直接触れないようにすることで塵の付着を大きく削減することができました。これにより、継続的に安定した測定が可能になりました。
右のグラフは、VTQセンサーと旧センサーにわざと塵を付けた状態で精度比較を行った試験結果です。VTQセンサーが精度を維持するのに対し、旧センサーは埃により誤差が大きくなっています。
4 風速計の種類
JIS T8202には風速計の定義もあります。事務所,工場,地下街などの自然換気及び人工換気における空気流の速さを測定し、風速値を指示するものを風速計と定義されております。一般的に屋内で使用される風速計の種類は3種類ありますので紹介します。
1)熱式風速計
センサー部の抵抗体を周囲環境より高く熱しておき、風を受けることによってセンサーから奪われる熱量を抵抗値の変化量として感知し、その変化量を風速に換算しています。
小型で、応答が早く、微風速領域での精度がよいのが特徴で、風速計の中で最もメジャーです。空調ダクトやクリーンルームなどの微風速も利用でき用途が広いです。VTQセンサーはこの方式であり、一般的に販売しているマスフローメーターも同じ原理です。
当社では、この原理の風速計の以下のラインナップをそろえております。
- VTQセンサータイプ
- 1) ダクト挿入型、リモートプローブ型EE650/EE660
2) 汎用小型プローブ型EE671 - VTQセンサー無し
- 1) 工業用型EE75
2) ハンディタイプTEKHNEPort
3) 圧縮エアー用マスフローメーターEE771/EE772
2)ピトー管式風速計
全圧と静圧の差を測り、動圧を求め、そこから風速を求める原理です。一般的に高風速域で精度がよく、微風速域では精度が悪いです。飛行機や風洞に使用されております。
ピトー管には、先端にピトー孔(風が流入する開口部)を持ち、後面には静圧を測定するための孔があります。
ピトー管の利点は、特に高速の風速測定に優れている点です。航空機の速度測定や風力発電の性能評価など、幅広い分野で利用されています。ただし、設置角度や周囲の影響を考慮する必要があり、正確な測定には適切な配置が求められます。
3)ベーン(風車)式風速計
羽で風を受けることによってその羽の回転数を風速に変換して測定できます。温度・湿度の変化にほとんど影響を受けずに測定が行えます。羽根で風を受けるため、指向性がなく、一方向のみの風にしか反応できません。また、応答が遅いので、風速の方向が決まっておらず急変するような箇所の測定には適しません。空調ダクト用に使われております。
ベーン風速計の利点は、その耐久性と設置の簡便さです。屋外や室内、産業環境において幅広く利用され、特にHVAC(暖房・換気・空調)システムや気象観測で重宝されています。ただし、風速が非常に高い環境では測定精度が低下する可能性があるため、使用条件に注意が必要です。
5 風速計の設置上の注意
風速計を正しく配置しないと、正しい速度を測れない場合がありますので、注意してください。
1) 配管の中央に
正しく風速を把握するためには配管内の複数点の風速の平均値を算出する方法が推奨されています。
一方、現実的にはコスト面の問題から、1箇所につき1点だけを測定する場合も多いです。この場合、プローブ先端が配管の中心に位置するよう、調整して設置してください。これは中心の風速が管からの乱流を最も受けにくく安定している為です。中心への設置が困難な場合は配管の直径から30~50%の位置までに設置してください。
2) 外乱要因がある場合
配管の太さが途中で変わったり、カーブがある場合は中の風の流れが乱れている可能性が高いので、そのような場所での計測は避けて下さい。これらの近くで測定しなければならない場合、手前から直径の6倍、後は直径の3倍相当の距離を取って設置してください。参照図に参考例を示します。Dが直径です。
推奨される設置方法
風向きに対して垂直にかつ、中心部に設置してください。
気流を乱すもの(ファンなど)からは整流格子を設け、配管直径の6倍の直管距離を取ってください。
吹き出し口付近や管径が大きくなる箇所では 配管直径3倍以上を確保できる手前に設置してください。
分岐や配管のカーブがある箇所には設置せず、参照図のように直管距離を確保できる箇所に設置してください。
コラム 台風と風速の関係
・台風の発生の仕組み
台風の発生には海面水温が26~27℃のであることが不可欠と言われています。これは、台風のエネルギー源である水蒸気を供給するために必要な温度です。
温かい海水が蒸発し、その水蒸気が大気中に放出されると、上昇気流が生じます。上昇気流は水蒸気を運び、上空で冷やされると水蒸気が凝結し、雲を形成します。凝結時に放出される「潜熱」と呼ばれる熱エネルギーが、空気をさらに暖め、上昇気流を強化します。この熱供給が連鎖的に続くことで、台風は次第にエネルギーを蓄えていきます。この段階では、まだ台風と呼ばれるほど強力ではなく、一般には熱帯低気圧として知られます。
台風の発生には、次に「コリオリの力」と呼ばれる地球の自転による効果が重要です。コリオリの力は、地球の自転がもたらす物体の進行方向を曲げる力で、これがなければ上昇する空気はまっすぐに上昇し、渦が形成されません。コリオリの力により、上昇気流は反時計回り(北半球の場合)に回転し、次第に渦を巻いた低気圧が形成されます。これにより、台風特有の回転運動が生まれます。
また、台風が成長するためには「風の鉛直シア(風切)」が小さいことも重要です。風の鉛直シアとは、異なる高度での風向や風速の違いを指します。これが大きいと、上昇する空気の渦が引き伸ばされ、台風が崩壊しやすくなります。逆に、鉛直シアが小さいと、上昇気流が安定して持続し、台風がさらに発達することが可能となります。
台風の発生から成長に至るプロセスは、次のような段階を経て進行します。まず、海面で発生した温かい上昇気流が渦を巻き、低気圧が形成されます。この段階では、まだ「熱帯低気圧」として分類されますが、さらに風速が増すと「台風」として認定されます。
台風は、通常海上でその強度を増しますが、陸地に上陸すると、海水からのエネルギー供給が途絶えるため、次第に弱まります。更に、上空の乾燥した空気や、強い風の鉛直シアによっても、台風は弱体化します。
台風の発生と成長は、海面水温、上昇気流、コリオリの力、風の鉛直シアなど、様々な条件が複雑に関与しており、これらが揃ったときに強力な台風が形成されます。
・台風と風速の関係性
台風の強さを示す風速は、被害の大きさや緊急対応の必要性を判断する指標となります。風速測定の技術や台風に関する研究は進展しており、今後も気候変動の影響を考慮した新たなアプローチが求められています。台風の脅威から人々の生活を守るためには、正確な情報と迅速な対応が不可欠です。私たち一人ひとりが、台風の特性や影響を理解し、備えを怠らないことが重要です。
台風の風速は、気象庁や国際気象機関によって定められた「サファー・シンプソン・ハリケーン・スケール」に基づいて分類されます。このスケールは、1から5までのカテゴリに分けられ、風速が上がるにつれて、台風の強さや影響も増加します。
- カテゴリー1(風速:119-153 km/h): 最小限の損害。木の枝が折れ、屋根の一部が飛ばされる可能性があります。
- カテゴリー2(風速:154-177 km/h): 中程度の損害。住宅や建物に損害が生じ、大きな木が倒れることがあります。
- カテゴリー3(風速:178-208 km/h): 甚大な損害。構造物が大きな被害を受け、電力供給が遮断されることが多いです。
- カテゴリー4(風速:209-251 km/h): 壊滅的な損害。ほとんどの木が倒れ、住宅の大部分が破壊される可能性があります。
- カテゴリー5(風速:252 km/h以上): 壊滅的な被害。多くの構造物が破壊され、広範囲にわたる停電やライフラインの崩壊が発生します。
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